昨日はいろいろとあったな。
王様に呼ばれて、魔王を倒せと言われるわ、貰った剣には元魔王がいるわで……シルフィーネ村に向かう馬車に揺られながら昨日のことを思い出す。
あの後もゾルダにはこの世界のことを少し教えてもらった。
自分のステータスの見方も。「ステータス、オープン」
レベルは1、パラメータも特筆するものはない、スキルも特に今はない。
経験を積んでいけば何かは得られるのだろうか。 そういえば、ゾルダが言っていたな。~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ステータスの見方はわかったか? おぬしは特に現時点では何か凄い能力を持っていることはないようだな」よくある飛びぬけた能力を持って転移する話。
その期待をしていたが、不発に終わったようだ。 そう世の中うまくいかないよな。「なんだよ~。
よくある異世界転移の話だったら、チートスキルか能力があるはずなのになぁ……」ゾルダがキョトンとした顔でこちらを見る。
「なんじゃ、そのチーなんちゃらとか、異世界転移の話とかは……」
元の世界の話だから、通用しないのは当たり前か。
そこでゾルダに元の世界の流行りの話をしてみた。「あっ、こっちの話。
俺が元いた世界には、そういう作り話が流行っていて、 転移とか転生するとものすごい力や能力を持って、 無茶苦茶活躍するっていう話がいっぱいあってだな。 そのすごい力をチートって言っていたのでつい言葉が出てきた」感心した様子でうなづくゾルダ。
「そうなのか……
おぬしの元の世界も面白そうなところだのぅ。 頭に思い描いたものを話として世の中に広めていくのだから」こちらの世界には小説とか物語とはないのだろうか。
伝説という感じの話はありそうだけど。「まぁ、そういうことだ。
しかし、そう世の中、話のように上手くいかないな」俺は自分を納得させるように言い聞かせた。
「そういうことかもしれんのぅ……
おっ、そうだ、ちょっと待っておれ」ゾルダが俺の頭に手を当て、目をつむる。
「んっ……
でも、呼び出されただけのことはあるやもしれん」ゾルダは何かが見えたようにつぶやいた。
「それは、どういうこと?」
俺に何かがあるのか?
ちょっと期待してしまう。ゾルダは手を当てながら話を続ける。
「ワシは完全にではないが、素養というのを見ることが出来る。
ちょっと見たところだと、強くなっていく素養はありそうだぞ」今は能力を発揮できないってことか。
簡単に手に入るものではないのは、元の世界でも同じだ。「努力すればなんとかなるってことか……
せっかく異世界来たのなら、もっと楽できると良かったけどなぁ」頭から手を離したゾルダが、俺に向かってさらに話を続けた。
「今のままではおぬしに死なれてもワシが困る。
強くなるようにワシも手伝うから、絶対に死ぬなよ…… ワシはまだ元の力は出せないようだが、おぬしよりは強い力は出せるぞ。 ザコならこの剣を振れば一瞬で狩れるから、経験稼ぎにはなるはずじゃからのぅ」チート能力がなくても、楽に経験値を稼げるようならそれはそれでいいかもしれない。
「そこが楽できるならいいか」
楽観的に考えていこう。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~素養ある分だけマシか。
努力すれば報われることが確定しているなら、努力のしようもあるもんだ。そうこうしていると、森の手前で馬車が止まった。
「大変申し訳ございませんが、ここから先は案内が出来ません」
案内役が怯えた様子で俺に話しかけてきた。
「なんで?」
理由もなしにそう言われても困ってしまう。
案内役にそう尋ねると、申し訳なさそうに答えてくれた。「ここ最近、通常より魔物が強くなってきたため、私どもはこの先に進むことが出来ません。
シルフィーネ村はこの森を抜けた小高い丘の上にあります」ここからは自力か。
経験も積まないといけないようだし、ちょうどいいか。 ゾルダも他の人がいると出ようにも出てこれないようだし。「わかった。
ここまででも案内してくれてありがとう。 ここからは、1人で行くよ」案内してくれた馬車に別れを告げて、森の中を進むことにした。
馬車は一目散に走っていった。 よっぽどこの先が怖いのだろう。馬車の姿が見えなくなると、ゾルダが顔を出してきた。
「たしかに、この森は少しばかりいつもと違うのぉ
ワシにはたいしたことないが、おぬしにはちょっとばかしきついかもな。 なに、ワシと一緒なら、大丈夫だ。 とにかく、先手必勝。受け身に回らずこちらから仕掛けていけよ」ゾルダは気楽なもんだな。
初めての実戦になるかもしれないので、ドキドキしているのに。「その時は頼むぞ、ゾルダ」
意を決して、森の中を進み始める。
しかし木々が生い茂り、陽の光もあまり差し込まない薄暗い森だ。 明らかに何か出そうな雰囲気がする。「肝試しをしているみたいだ」
少し葉が揺れ動くだけで、ビクッとする。
「何をそんなに怖がっているのじゃ」
脳内にゾルダの声がする。
もし強い魔物とか出てきたらどうするんだ。 怖がるのも普通だと思うのだが……「そりゃ、いつ何が出てくるかわからないし
警戒しながら歩いていれば、そうなるよ」ゾルダの声が頭に響く。
顔は見えないが、ニヤニヤしていそうな雰囲気は感じた。「そんなに怖がらなくても大丈夫じゃ。
ちょっと先にしか、魔物はいないぞ」索敵能力でもあるのか、ゾルダは。
「それがわかるなら、最初から教えてくれよ」
ゾルダに対して、ちょっと文句を言う。
「おぬしもわかっているもんだと思っていたわ。
この先に、数匹いるからな」この世界では常識なのか。
それともゾルダだけの能力なのか。 よくわからないが、あいつにはわかるらしい。 便利な能力だ。少し進むとそこには3匹のウォーウルフがいた。
剣を抜き構えると、ウォーウルフたちが一斉にこちらを向いた。「ウォーウルフか。
おぬしにはちょっと強いかもな」いきなり強い魔物が出てくるの?
RPGの定番じゃ……「そうなの?
最初だし、こういう時に出てくるのはスライムなんじゃないの?」そう、弱い敵をちまちまと倒してレベルアップする。
それがRPGの定番だろう。「さっきも言ったじゃろ、少しこの森は違うと。
そんな弱い物たちは、とうにこの辺りにはおらん」もういないということは元々は居たのだろうか。
でも現実で即死モード実装はないだろうと思う。「死にゲーじゃないんだから、初手から強いの出てこなくても……」
ため息をつきながら、自分の身の不幸に落胆する。
「ほら、そんなへっぴり腰じゃ、倒せるものも倒せんぞ。
大丈夫じゃから、剣が当たらなくても、ワシが力を増幅させてやるから、さっさと振れ」今はゾルダの言葉を信じるしかない。
「わかった」
不器用な構えから剣を横に懸命に振る。
剣からは、黒いオーラのようなものが立ち上り、振った先にいるウォーウルフたちに襲い掛かる。「ギャンッ!」
黒いオーラに包まれたウォーウルフたちは次々と倒れて消滅していく。
「な、一発じゃっただろ」
ドヤァという感じの声でゾルダが話しかけてきた。
「凄いな、ゾルダは……」
俺自身が弱いのはわかっているからこそ、心の底からそう思った。
「じゃろう、じゃろう、もっとワシを褒めろ!」
そういいながら、ゾルダは高笑いをする。
「それより、おぬし
おぬしより強いウォーウルフを倒したんじゃから、レベルが上がっているはずじゃ。 確認してみろ」忘れていた。
力が上がった感覚もないから、数値で確かめないと。「ステータス、オープン」
3匹倒しただけだったが、レベルが4つも上がっていた。
「なんか数字を見ただけで、少し強くなった気がするよ」
ちょっとだけだが、この世界でやっていけそうと思った。
「まだまだ序の口じゃ、さっさと進みながら、倒して行くぞ」
うなずくと、前を向き歩き始めた。
少し強くなれたし、これで少しは楽になるかな。 次はゾルダの力を借りずに自分の力で倒せれば。 そんなことを考えながら、森の中を歩きシルフィーネ村へ向かうのだった。「やるのぅ…… なかなかと…… ワクワクさせてくれる」あやつもワシについてこれるようになってきたかと思うと自然と笑いが止まらないのぅ。「さてと…… これはついてこれるかのぅ」その戦いぶりが嬉しくてついついスピードを上げてしまう。「くぅっ……」あやつは苦しみながらもワシになんとかついてこようとしておるようじゃ。その中でもあやつはしつこくワシに聞いてきた。「やっぱり、お前、ゾルダだろ」「何度も何度もしつこいのぅ…… 私はソフィーナだ!」正体を隠して武闘大会に参加してみておるのじゃが、あやつはワシとわかっているようじゃ。しかし……そこは頑として認めんぞ。この間のオムニスの件もそう。メフィストの時もそう。何せほぼほぼ戦っておらぬからのぅ。ワシとしてはもう戦いたい欲でいっぱいじゃった。だから、武闘大会をあのじじいに仕向けたのじゃ。勇者の凱旋という餌で。まぁ、半分はあやつのためでもあるのじゃが……あとはあやつに内緒にことを運んで準備をしてきた。まぁ、魔法は使えんので、全開とは言わんが、それでもヒリヒリする戦いが出来ると思ったのじゃが……最初の相手……なんと言う奴じゃったかのぅ。激戦地から来た、俺が勇者を倒すなどとほざいておったが、よく覚えておらん。口の割には全然歯応えがなかったのぅ。槍の動きは遅いわ、ちょっと小突いただけで吹っ飛ぶわで、準備運動にもならんかった。次の相手も、その次の相手もじゃ。人族と言うのはこんな弱いやつらばっかりじゃったかのぅ。それに引き換え、あやつはやっぱり勇者と言われるだけの事はあるのじゃ。まぁ、ワシが鍛えたのもあるし、セバスチャンの訓練のたまものでもあるがのぅ。今までの奴らに比べたら、桁違いの歯応えじゃ。これぐらいやれると、やっぱり楽しいのぅ。「おぬし、なかなかやるようになったではないか」周りの観客どもも大歓声でワシらの戦いを見てくれている。こうやって注目されるのもまた楽しいし、やる気が出るのぅ。しばらく楽しくてあやつとの駆け引き、競り合いをやっておったのじゃが……あやつもしつこくくらいついてきおる。そろそろこちらも一撃を入れんとのぅ。楽しんでばかりもおれん。慣れない剣を使っているせいもあると思うのじゃが、あやつが思いのほか、やりおる。普段なら、こんな事せずに魔法なのじ
俺よりか後に登場してきたソフィーナ・デストルークの方を見上げる。「あーっ!」その見覚えのある姿。仮面で顔は隠しているが、まるわかりだ。「お……お前……」びっくりして指をさす俺に対して、ソフィーナ・デストルークは何食わぬ顔をして立っている。「それでは決勝戦を始めます。 謎の仮面女剣士ソフィーナ・デストルーク対勇者アグリ! それでは……はじめ!」俺の事は構わず開始の宣言をする審判。もうこうなればやけくそである。俺が想像している奴なら正直こいつに勝つのは無理だ。一矢報いれればいいぐらいだ。無様な負け方だけはしないようにしよう。そう思いながら、剣を構え、ソフィーナとの間合いを詰める。ソフィーナはニヤニヤとした顔をして、俺が振りかざした剣を軽く受け流し、俺へと顔を近づけた。「おい! お前、ゾルダだろ」周りに聞かれないように小声で話すも……「さぁ、なんのことでやら……じゃないのぅ…… なんのことでしょうか。 ワシ……じゃなくて私はソフィーナですわ。 あなたとは初めてお会いしますわ」ソフィーナはそう言いながら、剣を素早く動かし何度も切りかかってきた。俺は辛うじてその剣戟を受け切った。「あのさ、バレバレなんだよ。 そんな仮面で顔を隠したぐらいじゃ、わかるって」ソフィーナは剣での攻撃の手を休めずに話を続けた。「人違いをなさっているのでは? 誰も私のことは、その『ゾルダ』という方とは思っていないようですわ。 それを証拠に、国王をはじめ昨日会われた方々は誰一人としてそう感じていないようですわよ」「昨日の宴に出ていたのなら、『ゾルダ』じゃないのか? 『ソフィーナ』という人はいなかったし……」「いなかった証拠はありますか? 何時? どこで? 誰が? 見てないって? あなたこそ証拠を示してくださいませ」ソフィーナもといゾルダは一層のスピードアップをして攻撃の手をゆるめない。俺としても受け切るのが精一杯だった。剣を使ったことは見たことなかったけど、やっぱりそれなりに使えるようだ。「普段魔法ばかりだったけど、剣も使えるんだな」「嗜む程度に……じゃないのぅ…… 普段とはいつの事でしょうか。 私は普段から剣を使っていますわ。 剣士ですし」ここまでわかり切っているのに、あくまでも白を切るようだ。俺は戸惑いながらも
「あんちゃん、覚悟は出来たか? オレは最初から全力だぜ!」開始早々、ガリックは斧を振り上げて、俺を攻撃してきた。「覚悟を決めないと……」勝てるかどうかはわからないけど、やるだけやってみよう。俺は自分に言い聞かせるように言うと、素早く剣を構えた。でもなかなか斧が振り下ろされてこない。「ん?」なんでこんなに遅いんだ?ガリックの攻撃がすごく遅く感じる。余裕でかわすことが出来た。「???」ガリックもなんか驚いているみたいだが、俺も驚いている。なんでこんなに相手の動きが見えるようになっているのか……セバスチャンとの訓練でもほとんど攻撃は見えていなかった。マリーとの模擬戦もかわすのがやっとという感じだったし……少しでもタイミングが遅くなるとすぐに当てられた。「あんちゃん…… よくオレの攻撃をかわせたな。 まぁ、たまたまだろうけどな。 次はこうはいかんぞ」ガリックは矢継ぎ早に斧を振り回す。でも……遅い。凄く遅い。なんだこの感じ。次々にかわす俺。そんな俺を見て歓声が沸く。あれ?それほど沸くことをしているのか?ガリックは俺に交わされて、さらにムキになってなって斧を力いっぱい振り回してきた。それも余裕でかわした。「ゼェ、ゼェ、ゼェ、ゼェ……」ガリックは息切れを起こしている。「あん……ちゃん…… 避け……てばか……りいて……全然……攻撃……しないのか…… 俺が……そん……なに……怖い……のか?」疲れ切っていても強気な姿勢は変わっていないようだ。でもなんでこんなに簡単にかわせるんだ。もしかして……訓練の成果?セバスチャンの訓練ってもしかして凄かった?これならこっちの攻撃も当たるかも。「なら、こっちから行くぞ」剣を構え直し、ガリックに詰め寄り、剣を薙ぎ払う。――ブンそれに対してガリックは無防備のままだった。「ウギャーーーー」得も言われぬ声でガリックは吹っ飛んでいって、壁に激突した。一瞬静まり帰った闘技場――次の瞬間、大歓声に包まれた。「ガリックは戦闘不能。 勝者は勇者アグリ!」審判がそう告げると、さらに歓声が広がった。「俺、勝ったんだ……」拳を握りしめ、ガッツポーズをした。その姿を見た観客たちは、大きな声で声援を送ってくれた。しばらく歓声を浴びていたが、ふと我に返る。歓声の大きさ
部屋を飛び出した一件の後、あっという間に武闘大会の日になった。その間も、何もしていなといろいろ考えてしまうので……セバスチャンにいつも通り訓練をしてもらっていた。身体を動かしていると無心になれるというか考えずに済むから。セバスチャンの訓練も首都までの道中よりも、もう一段階上がった訓練になった。そのこともあってか、訓練後は疲れ果てて夕食後はすぐ寝てしまっていた。その間、ゾルダはと言うと……いつもと変わらぬ様子で、城のあちこちに出かけて、部屋にいないことが多かった。そのことをマリーに尋ねたのだが……「マリーは何も知らないですわ。 ねえさまは『忙しいのじゃ忙しいのじゃ』と言って…… 全然マリーの事構ってくれませんし……」と、何かやっているようだったけど、疲れてそこまで考えるほどの余裕はなかった。そして武闘大会当日――大会に参加したのは俺も含めて16名。急遽の開催ということもあって、人が集まらないかと思ったが……思いのほか人は集まって大会らしい大会になっていた。近隣から名うての冒険者や貴族の護衛、名を上げたい荒くれ者、国王の騎士団からの推薦者などなど……俺に一泡吹かせて、名前を売ろうと思っている者たちがエントリーしていた。「おっ、あんちゃんが、勇者か? なんか弱そうだな。 いろいろと話は聞いているけど、本当にお前がやったんか?」威勢のいい荒くれ者は俺に対して因縁をつけてきた。まぁ、そう思われても仕方ないのかもしれない。この場に居て、このメンツを見て正直まったく自信がないからだ。「ハハッ……ハハッ……」俺は愛想笑いをしてその場をごまかしてやり過ごした。そこへ、騎士団長が現れ、ルール説明が行われた。ルールとしてはざっとこんな感じ。・武器の使用は自由だが、武器は国が用意した模擬戦用の物を使用・魔法は禁止、使った時点で反則負けとする・武器に関するスキルの使用は可能(アトリビュートもOK)・降参するか戦闘不能と審判が判断したら負け「模擬戦の武器だからそこまで大けがにつながることはないとは思う。 スキルも弱体化の腕輪をつけてもらうから問題ないとは思うが…… お互い敬意を持って戦ってほしい」騎士団は最後にそう言って、ルールの説明が終わった。その後、トーナメントの組み合わせをすることになった。俺はくじ引きを引くこ
あやつが部屋を出ていきおった。あまりにもグジグジするあやつに、ちょっとイライラしたワシは、思わず声を荒げてしまった。そうしたら、何も言わずあやつが出ていってしまった。「…… 何がいけなかったのじゃ?」何かあやつに対して変なことをしたのか……思い当たることがないのぅ。「お嬢様…… 少し言い過ぎだったかと思います」セバスチャンが苦笑いしながら、ワシに近づいてきた。「何を言い過ぎたのじゃ? あやつが煮え切らないのがいけないのではないか? それに、あやつの強さを示す絶好の機会じゃと思うのだじゃが……」あやつが前々から少しおかしいのは感じておった。ワシらと共に行動しているとあやつがワシらより弱いので、戦果も挙げられていないのは知っていた。そこを気にしているのかと思ったから、国王を嗾けて武闘大会を開催するように言った。人族相手なら十分あやつも通用するからのぅ。「アグリ殿はここでの自分の立場に悩んでいるのかと思います。 確かにお嬢様が言う通りに、アグリ殿が自分自身が成長していることを実感できれば…… 悩みの一つも解消されるかもしれませんが…… そう簡単なものではないでしょう。 私たちと共に行動している限り、役に立っていないと大きく感じるのではないでしょうか……」「うむ……」セバスチャンはさらに話を続ける。「アグリ殿は強くなったことを実感したいということではなく…… 私たちの役に立ちたいという思いが強いのではないかと思われます。 アグリ殿は異世界から来られた方。 その世界では、もしかしたらそういう観念が強いのかもしれません」もしセバスチャンが言うことがあやつの本心であるのであれば……「だとしたらじゃ…… さっきのワシは言い過ぎたじゃろうか? このままあやつが戻ってこなかったどうしよう」あやつのことを……アグリのことを……思って取り計らったつもりじゃが、逆効果じゃったようのぅ……ワシはあやつが強くなりたいと願っているのじゃと思っていたのじゃが……なんとも言えない気持ちが沸き上がってくる。どうしたらいいのじゃ。あやつが戻ってくるにはどうすればいいのじゃ……「のぅ、セバスチャン。 あやつを探しに行った方がいいじゃろうか?」「今はそっとしてあげたほうがよろしいかと思います。 アグリ殿も気持ちの整理が必要にな
昨晩、国王が宴で突如発表した武闘大会――なんか俺も出ることになっている。相談も無いし、出るとも言っていないんだが……「ゾルダ、お前国王様に何か吹き込んだ?」どうせゾルダが何か仕掛けたのだろうと思い、問いただした。「さぁ、のぅ…… 何のことやらさっぱりわからんのじゃ」ゾルダはあくまでもしらを切り通すらしい。その顔はにやつきが止まっていない。「あのさ…… 俺がいつ出るって言った? そもそも武闘大会なんて出ている時間もないんじゃないのか?」「まぁ、まぁ、そう目くじら立てんでものぅ。 ここでおぬしが出なければ国王様のメンツをつぶすことになるぞ」「ぬぐぐぐ…… そりゃそうだけどさ……」なんかゾルダにしてやられた感じがある。悔しさが顔に滲み出る。「いいのではないでしょうか。 アグリ殿のいい訓練とこれまでの成果を試す場としては」セバスチャンは前向きにとらえるようにと俺にアドバイスをしてきた。確かにそうではあるのだが……「でもさ…… 俺って強くなっているのかな…… 魔王軍との戦いでもそう役に立った覚えはないし」「アグリはそんなこと気にしているのですか? そりゃ、ねえさまやセバスチャン、マリーに比べたら弱いですが…… 人族ならそこそこいけると思いますわ」マリーからどストレートな意見を言われた。しかもそこそこって……「そういう評価なんだ、俺って…… でもさぁ、勇者が簡単に負けたら、何を言われるかわからないし…… この状況って、俺は勝たないといけないよね。 プレッシャーも半端ないんだけど……」弱音や愚痴が次から次へと口から出てくる。自信がないし、強くなったかもわからない。でも勝つことを義務付けられているような大会だ。そんな感じでどう戦えと言うのだ。「おぬしは相変わらずグチグチ言うのぅ。 腹をくくるのじゃ! 今までの成果もあるし、ワシらから訓練もしておる。 もう少し自信を持たぬか!」俺の愚痴にイライラしたゾルダが俺に対して怒りをぶつけてきた。「ワシがせっかくお膳立てしてやったのに…… おぬしが越えられぬ壁を用意したつもりはないのじゃ! 十分強くなっておる。 人族相手なら正直手加減したほうがいいぐらいじゃ!」自信を持て、強くなったと言われても、結果が出ていない以上実感がないのも事実である。そこを